ジョージ朝倉「溺れるナイフ」あらすじと感想。10代の刹那を描いた痛くて切ない物語。

こちらの記事では「溺れるナイフ」のあらすじや感想、登場人物などを書いていきます。
「溺れるナイフ」は、別冊フレンドで 2004年11月号~2014年1月号まで
10年にわたり連載されていた「ジョージ朝倉」による全17巻の少女漫画です。
ジョージ朝倉の代表作であり、
10代の少年少女たちの感情や心の動きを、繊細に鋭く描かれており、
たくさんのひとに感動を与え、人気を博した「溺れるナイフ」
そして、物語の舞台となる浮雲町の‘‘信仰‘‘や‘‘神道‘‘の厳かな空気、
独特の世界観が美しく表現されていて、とても印象的なのです。
特に夏芽とコウが出会った「神さんの海」の静けさ、「火付け祭り」の荒々しい情景、
自然豊かな山の木々など、かなりリアルに描かれていて、読み手のこころを惹きつけられます。
この漫画を一言で言うと、「10代の刹那な時を描いた、痛くて切ない物語」。
2016年に、小松奈々×菅田将暉で映画化もされた、
「溺れるナイフ」のあらすじや感想、登場人物などを合わせて書いていきます。
もくじ
「ジョージ朝倉」溺れるナイフのあらすじ|見どころは、10代の少年少女たちの、キラキラ光る繊細で鋭い心の動き。
親の実家の都合で、東京から遠く離れたド田舎の浮雲町に引っ越してきた望月夏芽。
モデルとして人気絶頂な時期だったため、自分が欲する「何か」から遠ざかってしまったと落ち込んでいた。
だが、退屈でウンザリするようなその町で、ある日、運命的な出会いをするーーーーーーーー。
体を貫くような‘‘閃光‘‘と、ある日、‘‘神さんの海‘‘で出会ってしまう。
それが、「コウ」と呼ばれる少年・長谷川航一朗だった。
彼はその土地一帯を取り仕切る神主一族の末裔で跡取り。
そのため、傲慢で激しく、自由な少年に育っていた。
意地悪で気まぐれで、エキセントリックな彼に反発しつつも、どうしようもなく惹かれていく夏芽。
彼の神々しさに心を奪われ、いつか「コウちゃん」は「わたしの神さん」だと特別視しはじめる。
コウもまた、夏芽の美しさに自分と同種の力を感じ、夏芽を受け入れ付き合い始める。
夏芽はカリスマモデルとして名前が売れ始め、一緒にいれば無敵だ!と、
全能感を感じ、絶頂期を迎える2人。
しかし、浮雲町の夏祭り‘‘喧嘩火付け祭り‘‘の夜、2人を切り裂く残酷な事件が起きるのだったーーーーーーーー。
夏芽が熱狂ファンによって、拉致され暴行されそうになる。
コウが助けに来てくれると信じて待つ夏芽・・。危険を察知し駆けつけるコウ。
しかし、変質者に返り討ちにされ、殺されかかる。
無敵だと思っていたコウは血と泥で汚れ、子供のように泣きじゃくる。
気高く誇り高いはずのコウは、実はまだ15歳の少年だった。
一緒にいれば無敵という予感は消え去り、光を失った2人は別れてしまう。
夏芽は「全能」と信じた‘‘神さん‘‘であるはずのコウが、自分を助けられなかったことに傷つき、
助けることができなかったコウもまた「2人の世界」の終わりを悟る。
失われた全能感、途切れてしまった絆。
傷ついた2人は、再び輝きを取り戻すことができるのか。
未来への一歩を踏み出すために、いま、2人がくだす決断とはーーーーーーーー。
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時は経ち、高校へと進学した夏芽。
しかし、あの日の呪いは未だ解けず、闇の中に深く沈んだままの夏芽。
そんな夏芽に優しく手を差し伸べ、救い出そうとする大友。
一方、コウは地元のヤンキーとつるみ、喧嘩に明け暮れる荒れた日々を送っていた。
コウもまた、あの日の呪いは解けないままだ。
大友の優しさに惹かれ付き合い、普通の女子校生の恋愛をはじめる夏芽。
大友とそれなりに幸せな日々を送る夏芽。
平凡で幸せな毎日を送っていたが、カメラマン広能との再会を機に
戻るつもりのなかった芸能界の高揚感を再び味わう。
拉致事件のトラウマや、現在の生活とのバランスに悩みながらも、
ドラマ出演を決意し、再び芸能活動を始めた。
コウの暴力に走る素行の悪さは、あの事件がきっかけなのではと気になりながらも、
大友との穏やかで幸せな時間を大切していたはずだったがーーーーーーーー。
「ジョージ朝倉」溺れるナイフ|登場人物
望月 夏芽|人気モデル。コウと出会い強烈に惹かれ付き合うが、拉致事件に遭う。
望月 夏芽
溺れるナイフ 6巻P10より引用
家は旅館「ひねもす屋」を経営。弟がいる。
小学6年生のころに親の実家の都合で浮雲町に引越す。
浮雲町の‘‘神さんの海‘‘でコウと出会い、強烈に惹かれていく。
周囲の目を引く、綺麗な顔立ちの美少女で、
刺激的な「何か」を欲し、東京にいた頃はモデルの仕事もしていた。
目立つ外見や、モデル、東京出身ということもあり、なかなか周囲に溶け込めない。
有名カメラマン広能の目に留まり、写真集のオファーを受け、
その写真集をきっかけにコウと付き合いはじめる。
CMや映画の出演が決まり、すべてが順調だったのも束の間、
熱狂的なファン・蓮目による拉致と強姦未遂にあい、芸能活動をやめる。
事件をきっかけに、コウとも破局し、心を閉ざしてしまった夏芽は学校でも居場所を失う。
中学3年生になり、友人だった大友と付き合うようになってからは、明るさを取り戻しはじめる。
平凡で幸せな毎日を送っていたが、カメラマン広能との再会で、戻るつもりのなかった芸能界の高揚感を再び味わう。
拉致事件のトラウマや、現在の生活とのバランスに悩みながらも、ドラマ出演を決意し、再び芸能活動を始めた。
コウの暴力に走る素行の悪さは、あの事件がきっかけなのではと気になりながらも、
大友との穏やかで幸せな時間を大切していたはずだったがーーーーーーーー。
長谷川 航一朗|夏芽と付き合うが、拉致事件のあと別れる。
長谷川 航一朗
溺れるナイフ 3巻P24より引用
地元の大地主「長谷川家」の跡取り息子。腹違いの姉がいる。
通称コウ、コウちゃん。
家は「長谷川産業」を経営しており、山を一つ所有するほどの金持ちで、
浮雲町の人間なら必ずなんらかの世話になっているため、誰も頭が上がらない。
コウは、そんな長谷川家の‘‘本家の跡取り‘‘という大きなプレッシャーを背負っている。
長谷川家の血筋で、少しだけ霊感のようなものがあったことから、
家族や、周囲の大人たちから過剰に期待される環境にあった。
そのせいか、幼稚園の頃は非常に暴力的で荒れており、周囲から怖がられていた。
不思議な力を持つ曾祖母に数珠を授けられた頃から落ち着き、
小学校以降は皆の輪の中心に立つ人物になる。
小学6年生のころに夏芽と出会い、中学に上がり付き合い始める。
しかし、その幸せな時間は長くは続かない。
夏祭り‘‘喧嘩火付け祭り‘‘の夜に起きた、拉致事件で夏芽を助けられず、その後破局。
再び暴力的な性格が目立ちはじめ、夏芽はもちろん親友の大友とも疎遠となり、
暴力、喫煙、後輩いびりなど、素行が著しく悪くなる。
学校での成績は良くなが、第一志望校は偏差値70であることや、
カミュの「シーシュポスの神話」を読んでいたり、
近現代の思想家の著書で部屋が埋め尽くされているほどの読書家である。
また、公の場では、長谷川家の息子にふさわしい堂々として大人びた振る舞いを見せる。
家庭は複雑で、父親との確執は溝が深い。
町では「コウの母・冬美は舅である先代に孕ませられてコウを生んだ」と噂されているが、真相は藪の中。
冬美はそのせいで気が狂い、幼いコウの首を絞めているところを見つかって、
神さんの海に身を投げ、いまだに死体があがらないという。
財産目当てで現れた先代の愛人の子・薫に藪まれている。
大友 勝利|コウの親友。コウと夏芽が別れたあと、夏芽と付き合う。
大友 勝利
溺れるナイフ 10巻P8より引用
漁師の息子。夏芽のクラスメイトでコウの元親友。
おおらかで優しく明るい性格で。
幼い頃、暴力的だったコウにも臆せず近づき、親友となる。
コウのことが大好きで、彼女になった夏芽のことがはじめは気に食わなかった。
コウの素行が悪くなり始め、少しずつ疎遠になりはじめる。
大友とコウの友人がリンチされた際、その場にいたコウが、手を出してはいないものの、
他人事のような顔をしていたことに失望し、交流がなくなる。
夏芽とは長いこと腐れ縁で、お互い全く意識していなかったが、中3の夏休みから付き合い始める。
夏芽のドラマ出演には賛成していなかったが、生き生きと撮影をしている姿を見て、心が突き動かされ、
事件のあと、芸能活動に臆している夏芽をあと押しした。
幼い頃から地元の海で遊んでいたため、サーフィンが得意。
芸能界に復帰した夏芽に触発され、ギターの練習にあけくれている。
松永 カナ|夏芽とコウを神聖視している。コウの信者。
松永カナ
溺れるナイフ 6巻P34より引用
実家は喫茶店「こけもも」。
夏芽のクラスメイトで、浮雲町での夏芽の最初の友達。コウの信者。
夏芽がクラスで孤立したとき、唯一仲良くしていたクラスメイト。
地味で太めの体形と、おどおどした性格で小さいころから周りにバカにされている。
周囲には隠していたが、ファッションや美容に興味があり、
夏芽が転校してくる前から愛読雑誌「プラム」のモデルだった夏芽のファンだった。
また、幼稚園のころからずっとコウが好きで、
追い払われても側を離れなかったため、コウに海に落とされたことがある。
そんな「憧れの2人」が惹かれあっているのを知ると、
「運命で結ばれたカップル」として神聖視するようになる。
自分が付き合うよりも、夏芽とコウの輝きを見ている方がいいと言っている。
拉致事件後、すれ違う2人を取り持とうした行動が裏目に出て、
それが夏芽たちの破局の直接のきっかけとなってしまう。
2人が別れたことに大きくショックを受けるが、
それをきっかけに痩せたり、ピアスを開けたりと、大胆にイメチェン。
コウを救えるのは夏芽だけだと思っているため、夏芽が大友と付き合うことを知り激怒。
それ以来、夏芽とあまり交流がない。
西条 桜司|コウの従兄弟。
西条 桜司
溺れるナイフ 11巻P5より引用
コウの従兄弟。
母親が、コウの祖父の愛人の娘・西条薫。
コウの2歳年下で転校してきた。
暴力的だが、根は素直で単純な性格。
母のことは大切にしており、マザコン呼ばわりされるほど。
しかし、幼少時は施設に預けられて母と暮らしていなかった時期もあった。
当初はコウと敵対していたが、長谷川家の複雑な家庭環境に巻き込まれるうちに
母親に首を絞められるなどの、似た経験をもっているコウを「兄ぃ」と呼んで慕うようになる。
コウを特別視しているため、夏目が目障り。
コウが夏芽のことを意識していると不機嫌になる。
西条 薫|桜司の母。コウの祖父の愛人の娘。
西条 薫
溺れるナイフ 11巻P126より引用
桜司の母。コウの祖父の愛人の娘。
コウの母・冬美とは腹違いの姉妹にあたる
コウの祖父である上嶋の葬式に現われ、コウの父親に取り入り、長谷川家に居座りはじめた。
かわいらしい外見とは裏腹に非常にしたたかで、
刑務所で服役中の夫をあっさり見捨て、長谷川家の中で地位を築こうとしている。
コウにも媚を売るが、度が過ぎて
「当主になったら手始めに殺してやる」と言われ、首を絞められる。
その時は桜司に助けられたが、コウの父親に寮つきの高校を提案するなど、
コウを長谷川家から追い出すよう仕組んだり、
桜司を捨てるような発言をし、桜司からも見捨てられる。
広能 晶吾|夏芽の才能を認めている一流カメラマン。
広能 晶吾
溺れるナイフ 10巻P28より引用
一流カメラマン。
スタジオで見かけた夏芽を気に入り、浮雲町で夏芽を撮った写真集「夏の足跡」を出版。
夏芽を可愛がっており、映画出演の手助けなどもする。
拉致事件後も夏芽にカメラをプレゼントしたり、文通で写真交換をするなど交流が続いていた。
文通で夏芽が彼氏ができたと報告された時も、芸能界に連れ戻すため、ドラマ出演の話を持って浮雲町にやってきた。
本人には黙っているものの夏芽に稀有な才能を感じており、
「今の流れはあのコにふさわしくない」と、同行した脚本家に語っている。
早瀬|小学生のころの夏芽のクラスメイト。
早瀬
溺れるナイフ 9巻P98より引用
小学6年生のころ夏芽たちと同じクラスだった。
明るくお喋りだが、噂や陰口が好きで、少々無神経なところがある。
中学に入った頃は夏芽と同じバスケ部で友達付き合いもしていたが、
拉致事件後、心配するフリをして夏芽から事件の詳細を聞き出し、
陰で噂話として楽しんでいたことがバレて、完全に縁が切れる。
実は大友のことがずっと好きだった。
上原|夏芽の次のコウの彼女。
上原
溺れるナイフ 7巻P23より引用
夏芽の次のコウの彼女。コウより2歳年上で、他校生。
短く切った髪の毛が特徴的で、明るくさっぱりした性格。
カナのいとこのじゅりと仲がいい。
コウに夢中だが、自分は本気で好かれてはいないと感じている。
美人で気が強く優しい面もあり、どことなく夏芽に似ている。
じゅり|カナの従姉妹。
溺れるナイフ 7巻P20より引用
上原と同じ新開女子に通う、カナの二つ年上の従姉妹。
長い髪にカールがかかった金髪で、コウからは「ライオンキング」と呼ばれ、
服装も派手で口が悪くカナとは正反対だが、イトコだけあって顔は微妙に似ている。
カナがイメチェンをするまで、何かと馬鹿にしていた。
国広 鈴香|夏芽たちの中学からの同級生。
国広 鈴香
溺れるナイフ 13巻P127より引用
夏芽たちの中学からの同級生。
化粧をしたり男子とグループ交際をしたりと、積極的でませている。
コウにつきまとっており、当初は夏芽を敵視していたが、
中学3年生の修学旅行をきっかけに夏芽とつるむようになる。
江波|鈴香グループの1人。
江波
溺れるナイフ 9巻P7より引用
鈴香グループの女子の1人。
大友が好きで夏芽にもそれを伝えていたのに、大友と夏芽が付き合い出したことを
夏芽が打ち明けてくれなかったことで疎遠になる。
武田|中学生のころの夏芽たちのクラスメイト。
武田
溺れるナイフ 6巻P161より引用
中学3年生の夏芽たちのクラスメイト。
外見に気を使わずオカルトマニアで浮いているが、本人は全く気にしていない。
担任のはからいにより、クラスで浮いていた夏芽とむりやり写真同好会を結成させられる。
普段は分厚いメガネをかけていてわかりにくいが、実はハーフで綺麗な顔立ちをしている。
それに気づいた夏芽に修学旅行中にヘアメイクをされ、
本人はファッションに興味がないのですぐ元に戻ってしまった。
それを見たまわりの女子が「私も武田さんみたいにプロデュースして!」と盛り上がり、
結果、夏芽がクラスに馴染むきっかけとなった。
蓮目 匠|夏芽を拉致した男。
蓮目 匠
溺れるナイフ 3巻P26より引用
夏芽を拉致した男。逮捕時は27歳。監禁致傷罪により懲役3年。
写真集「夏の足跡」が出版される前から夏芽の熱狂的なファンで、事件前からストーカーをしていた。
ひねもす屋の客として夏芽に近づき、「おじいさんが倒れた」と夏芽を騙し連れ去った。
しばしば夏芽の記憶に悪夢としてよぎる存在である。
「ジョージ朝倉」溺れるナイフ|登場する地名や場所。
浮雲町|夏芽が小学6年生から暮らす町。
浮雲町
東京から新幹線・在来線・バスを乗り継いで5時間の、海と山に囲まれた観光地。
ヤーヤー餅という食べ物が名物(カナの実家で売ってる)
毎年夏に‘‘喧嘩火付け祭り‘‘という祭が行われる。
昔は数え年13歳以上が参加とのことだったが、
現在は変更され18歳以上だけが参加できるようになっている。
住民は独特の方言で話すが、映画『仁義なき戦い』に出てくる広島弁と上方語を取り混ぜた架空の方言とのこと。
神さんの海|夏芽とコウが出会う海。
夏芽とコウが出会う場所。
鳥居が立っていて夕焼けがきれいに見えるスポット。
立ち入ると、祟られたり海が荒れると言われておる。
コウは「この町は何でも俺の好きにしてええんじゃ」として自由に泳ぎまわったり、
伊勢海老をを獲ったりしている。
実は、コウの母が身を投げたとされている場所。
夏芽はコウにこの海に突き落とされたことがあり、カナも過去に突き落とされたことがあった。
月ノ明リ神社|夏芽とコウが落ち合う神社。
山の中の小さな神社。
浮雲町一帯で一番偉い醜女の神様が奉られている。
すごい嫉妬深い神様で、この山に女の人が入ると天才が起こってしまう。
そのため、あるときある若者が、その醜女でも月の下の明かりなら美しく見えるだろうと
ちょうどいい場所にこの神社を建てたら、すっかり穏やかな神様になったという言い伝えがある。
その若者の一族を今でも守っている。それが長谷川家(コウの家)
‘‘喧嘩火付け祭り‘‘の際にお参りする場所で。
祭りの1か月前は女人禁制となるが、夏芽は何度も入山してしまっている。
コウのお気に入りの神社で、コウが自宅にいないときの寝起きする場所にもなっている。
神さんの海とともに、夏芽とコウが落ち合う物語の軸となる場所。
「ジョージ朝倉」溺れるナイフの感想|溺れるように、もがき苦しむ‘‘10代の自意識‘‘が切ない。
田舎ならではの信仰・独特の世界観が物語の軸。
物語の舞台となっている架空の町、浮雲町。
物心がつくまえからそこに住む人々にとって、
‘‘神さん‘‘は信じるものではなく、‘‘神さん‘‘はそこに在るもの。
浮雲町で生まれ育った者たちは、誰も疑いません。
「溺れるナイフ」の物語の軸は、田舎ならではの‘‘信仰‘‘。
‘‘信仰‘‘や‘‘神道‘‘の厳かな空気、独特の世界観の中、この物語は進んでいきます。
田舎育ちのわたしには‘‘そこに在る‘‘という感覚が理解できます。
それは、都会で生まれ育ったものには理解しがたい、独特の空気。
その田舎特有の常識や決められた枠、レールからはみ出したい、
10代の危うさがとても刹那的で、苦しく切なく描かれています。
夏芽とコウが出会うのは、入ると祟られると言い伝えのある遊泳禁止の‘‘神さんの海‘‘。
そして、2人の別れも毎年夏に行われる‘‘喧嘩火付け祭り‘‘の日に起きた‘‘ある事件‘‘がきっかけになります。
ふつうの少女漫画にはない、信仰を軸にした海や祭、神社などの美しい田舎の自然や風景、
独特の世界観が「溺れるナイフ」の見どころのひとつ。
溺れるように、もがき苦しむ「10代の自意識(ナイフ)」ジョージ朝倉の描く、少年少女は秀逸。
題名にある「ナイフ」はジョージ朝倉曰く「10代の自意識」であり、
「破裂寸前の10代のこころ」と「剥むき出しの刃物」のような青春の情景を表しているそうです。
「溺れるナイフ」は、その‘‘10代のこころ‘‘を、繊細に鋭く描いている作品。
この物語は、恋愛だけに主軸を置いた浮ついた作品ではなく、
10代の少年少女たちの感情を、感性を、心の動きを、繊細に鋭くキラキラと光るように描かれています。
登場人物の少年少女たちの表情が豊かで、
彼ら彼女らが流す視線や、表情に思わずどきりとさせられるし、
心情も細かく描き出されていて、もやもやとした不安やジレンマが強く伝わってきて、
読んでいて、苦しい。
ジョージ朝倉の描く、多感な年頃の少年少女は本当に秀逸です。
小学生の少女だった夏芽が女へ変化していく様や、細かな感情の移り変わりや演出もうまいし、
夏目とコウ、2人の魅力的な色っぽさも、この物語の魅力のひとつ。
そして、10代特有の‘‘刹那の輝き‘‘を切り取っていくストーリー。
光もあれば影もある。
キラキラだけじゃない、ドロドロとした負の感情も渦巻き、
溺れるように、もがき苦しむ‘‘10代の自意識(ナイフ)‘‘
‘‘陰と陽‘‘、‘‘光と影‘‘が絡み合っていく。
表面的な光だけではなく、生々しくどす黒い‘‘嫉妬‘‘や‘‘妬み‘‘の影の感情も描かれています。
まさに、‘‘溺れるナイフ‘‘。
「溺れるナイフ」には、コウ視点の心の描写がない。ジョージ朝倉の巧みな演出。
ジョージ朝倉の作風でもあるのだが、時間軸をずらしつつ、主役以外の心の視点で描かれる回があります。
でも、この物語には、コウ視点の心の描写がありません。
周りの視点からしかコウを知ることができません。
カナや桜司、大友の回はあるのに、コウ視点だけがないのです。
‘‘「2人の世界」が終わってしまった‘‘あの事件以降、夏芽だけではなく、コウも苦しんでいたはずなのに。
コウの悔しさやもどかしさに、読み手も、親友の大友も、夏芽でさえも、
コウの負った傷を知ることができないのです。
苦しくて苦しくて、どうしていいかわからないコウが暴力に走ってしまう。
事件より前に戻りたいと誰よりも願っていたのは、コウだったのに。
時折、夏芽と視線が交わることもあるけれど、
もう2人の人生が交わることはないのかもしれないという切なさ。
お互いに救うことも、救われることもない。
容赦なく傷つけあう2人に、心がざわつきまくってたまらないのです。
胸がヒリヒリと痛むものがたり。
コウと対照的な‘‘光の少年‘‘大友との恋。夏芽をどん底から救い出す存在。
そして、溺れるナイフを読んだなら、必ず泣くでしょう。
コウちゃんと別れたあと、絶望の淵にいた夏芽を救ってくれた大友との恋に。
大友との別れに。
いい大人がドキドキとさせられてしまう、10代の恋に。
きっと大友みたいな男を「いい男」と言うのでしょう。
大らかで屈託なくて、情に厚くて、裏表なくて、健全でまっすぐで、
コウとは対照的な‘‘闇‘‘を寄せ付けない‘‘光‘‘の少年。
夏芽に冷たく突き放されても、彼は決してたじろがない。
夏芽の小さなヘルプサインを見逃さずに、単純な一言と太陽のような笑顔で、夏芽の不安をすくいとり笑いに変える。
安心感。暖かさと揺るぎなさ。
この人と手をつないでいれば、なんでも乗り越えられると思わせてくれる大きい存在。
夏芽をどん底から救い出し、夏芽の心が少しずつほどけていく様がとても良かった。
そして、きっと長くは続かないことがどこかでわかっている刹那的な関係がとても切ない。
夏芽が幸せそうであればあるほど、やがて訪れる破綻の予感が辛すぎます。
夏芽とコウを特別視してきた、カナの幸せも願わずにはいられない。
カナのこじらせ方も、ああ、こんな扱いをされてきたら、
こんな風にしか生きられなくなってもしょうがないのかな、と不思議と憎めない。
カナは、幼い頃からコウの後をついてまわっていて
嫌がられて石を投げられ血を流しながらも、
「トド」と罵られながらも、コウの後を付いて回っていた。
ずっとひどい扱いをされているのに、コウをずっと思い続ける。
2人が別れている間も、痩せてきれいになったのに傷つくことばかりが起きます。
コンプレックスの塊で、野暮ったくてうざったくて痛々しい。
ザ・女子に嫌われるタイプで、学生時代はカナにとってなかなか残酷な世界。
カナは、夏芽とコウを神聖視するばっかりに、正直気持ち悪い。
特別な2人が、美しい2人が一緒にいる姿を見られるだけで幸せなのだと。
本音は、コウの隣にいたかったはずなのに。
夏芽とコウ、本人達よりも、2人の運命を信じるカナの存在は、
あとから考えるとめちゃめちゃありがたい存在なのかもしれない。
物語の終盤でも悲しいつらい出来事が起きてしまうのだけど、
それでも、夏芽とコウを守るために、結局自分を犠牲にしてしまうのです。
自分自身をおざなりに生きてきたカナにも、
救いと幸せが訪れるといいなと、願わずにはいられない。
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